島添龍馬(文学作品のすすめ)

ミステリーを主にさまざま文学作品をご紹介していきます

(佐々木繁範『思いが伝わる 心が動く スピーチの教科書』)再レビュー

先生は話すのが得意?
学校の先生には、人前で話す場面がものすごくたくさんあります。

授業中はもちろんですが、ホームルーム活動や学活の時間、学年集会や全校集会など、主に生徒に対して、〈一方的に〉話す場面は数多くあります。

でも、実際には、話がうまい先生、というのはあまりいないように思います。

それはたぶん、人前で話すことをしっかりと勉強する、という時間や機会が、先生を含め、ほとんどの日本人にはないからではないかと思います。

ぼくは、国語科の先生として、このことには危機感を持っていました。

しかし、ひとまずは授業を成立させることに必死で、教育業界で言われる、いわゆる〈語り〉の勉強や訓練には、あまり時間を割いてこれませんでした。

でもぼくももう30代。そろそろ授業外での〈語り〉の技能を上げる必要があると感じて、最近特に「パブリック・スピーキング」や「スピーチ」に関する本を読んでいたのです。

そのなかで見つけた最も便利な本が、佐々木繁範氏の『思いが伝わる 心が動く スピーチの教科書――感動をつくる7つのプロセス』でした。

    
思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書

ちなみに他に読んだのは、例えば、
    
パブリック・スピーキング 最強の教科書

    
なぜ、あなたの話は響かないのか


『パブリック・スピーキング』は、セミナー講師向けの本で、前半は集客方法などが主として書かれています。

中盤に、主に「話し方」について説明され、後半はいかにビジネスを継続させるかについて書かれています。

スピーチや話すことに関する本という感じではなかったのですが、目的が違えば楽しめると思います。

『なぜ、あなたの話は響かないのか』の方は、かなりマインドセットに関する話が多く、話し方というよりも、自己啓発的な、マインドセットについて書かれた本でした。

まだまだいろいろ読もうとは思っていますが、現時点でいちばんオススメできるのが『スピーチの教科書』だったので、とりあえずこの記事では『スピーチの教科書』の紹介をしていきます。

スピーチの神髄は原稿
この本では、まず、スティーブ・ジョブズスタンフォード大学で行った卒業祝賀スピーチの話から始まります。


上のスピーチを抄訳し、引用した上で、次のように問題提起します。

ジョブズはプレゼンの神、天才などと称され、アップルの製品発表の場では、いつも華麗なパフォーマンスで人々を魅了していました。そんなカリスマだからこそ伝説のスピーチが可能だと思われるかもしれませんが、このスタンフォード大学でのスピーチに限って言えば、内容にせよ、構造にせよ、非常にシンプルで、私たちでも十分真似できるものなのです。(p.16)

上の動画のジョブズのスピーチは、「原稿を見ながら」「スライドも使」わずに、「演台から離れず、体も手もほとんど動かして」いない(p.27)。

でも、聞いている人を感動させるスピーチをした。それはなぜなのだろう?

佐々木氏の答えは簡潔かつ明快です。

カギは、スピーチ原稿にある
佐々木氏は、魅力的なスピーチを行うためには、話し方のスキルを上げるよりも、まずは原稿をしっかりと推敲して書くことが重要だと言うのです。

もちろん、原稿なしで、聴衆と終始アイコンタクトを交わしながら話ができれば理想ですが、スタイルだけ真似をしても感動するスピーチにはなりません。相当に演説慣れした人でなければ、たいていはスピーチ直前まで緊張していますし、頭の中は話す内容でいっぱいになっているものです。無理やりパフォーマンスをしようとしても、すべるのがオチです。(p.28)

このように述べた上で、佐々木氏はスピーチ原稿を作っていくための方法を、かなり具体的に、ワークシートなどを掲載しながら説明していくのです。

ところでスピーチとはなにか?
本書では、スピーチを、通常の話と比較して、ものすごくすっきりと定義しています。

スピーチと通常の話のちがい「組み立てられた話」を「一方的に行う」点
この「組み立てられた」という点に、スピーチ原稿の作成を重視する本書の妥当性があると言えます。

スピーチにおいては、話し方よりも組み立て方を重視すべきだ、ということです。

スピーチ作成のプロセス
佐々木氏の主張する、スピーチ原稿作成のプロセスは、以下のような流れで進みます。

事前情報の整理(いつ、どこで、誰になどの整理)
主張の明確化と焦点化(言いたいことを1つに絞る)
ボディ(本論)の作成
オープニングの作成
クロージングの作成
フルテキストの作成とリハーサル
ここではぼくが特に重要だと思ったことや、印象深かったことをピックアップして書いておきます。

メッセージを絞れ
スピーチをするときに、聞いている人たちに一番伝えたいことは何かを明確にする。

これがものすごくだいじなんだ! と繰り返し説明されています。

皆さんにも経験があるかもしれませんが、どんなに素晴らしいスピーチであっても、終わった後に記憶に残っている内容は驚くほど少ないのが現実です。したがって、スピーチ全体を通じて言いたいことを一つに絞り込むこと、すなわち、メイン・メッセージを明確にすることが極めて重要になるのです。スピーチは、すべての時間をかけて、たった一つのメッセージを伝えるために行うと言っても過言ではありません。(pp.63-64)

学校の先生でも、生徒に伝えなければならないことを、たくさん詰め込みすぎて、結局何が言いたかったのかわからない、という状況になっているのを目にすることも少なくないと思います。

何より、たくさん伝えようと思っても、伝わらなければ意味がありません。

最も大切なことを伝える。

これさえ伝われば、あとは全部忘れてくれても構わない。

そのようなメッセージを作ることが、まず何よりも優先されます。

したがって、まずは言いたいことを1つに絞る。

そしてその言いたいことを支えるために、必要なエピソードなどを考えていく、という手順でスピーチ原稿を作っていく必要があるのです。

ボディを作る上での、3つのテンプレート
さて、その1つのメッセージを支えるためのボディ部分を作るために、佐々木氏は「ビジネスパーソンのスピーチで使える、基本的な三つのタイプ」を紹介しています。

しかしこれは別に、「ビジネスパーソン」に限定されるものではなく、広く一般的に使える型だと思います。

ポイント提示型
問題解決型
ストーリー型
1. ポイント提示型
まず、ポイント提示型とは、要するに作文指導などで行われるナンバリングを使う方法です。

今日の話は大きく分けて3つあります。
1つ目は〜。
2つ目は〜。
3つ目は〜。
のような形式で書かれます。

佐々木氏はこの○つ、という整理の仕方に、MECEのようなビジネス・フレームワークが参考になると述べていて、なるほど、と納得しました。

ビジネス・フレームワークは、考え方や分析の仕方、といった形で使われることが多いと思いますが、表現の型として使う、というのは目から鱗でした。

2. 問題解決型
2つ目は、アラン・モンローの説得技法(MMS)のようなタイプ。

モンローの説得技法
注目 Attension
問題点 Need/Problem
解決策 Satisfaction/Solution
視覚化 Visualization
アクション Action
例として、オバマ大統領のスピーチが挙げられ、分析されます。


このパターンは、実際、生徒にプレゼンテーションをさせるときとかに、型として提示して使わせてみるのもだいじだろうなあ。

3. ストーリー型
最後がストーリー型。

ここではハリウッドの脚本術を参考にした型が示されます。

ストーリー型
状況設定
葛藤
解決
メッセージ
個人的には、ストーリー型は、実は一番難易度が高い型だと思います。

かなりうまく構成しないと、聞いている人を引きつけるのは難しい。

佐々木氏も、つぎのように述べています。

ストーリー型の注意点としては、あまり長い時間を物語一本で押し切るのは難しい、ということです。途中で飽きられてしまう可能性があります。
聴衆は、ストーリーが語られている間、主人公の心情の変化を出来事とともに追いかけていくのですが、映画やテレビドラマならいざしらず、素人が語る物語で十五分、三十分、一時間と聴衆を楽しませるのは至難の業です。(p.112)

でも、うまくいけば、すごく効果がある方法でもあると思います。

3つの型を組み合わせよう
ジョブズの先に挙げたスピーチは、ポイント提示型とストーリー型を組み合わせて作られています。

まず3つの体験談を話す、と語った上で、それぞれの体験談をストーリー型で話す、という構造です。

このように、ある1つの型だけではなく、いくつかの型を、効果的に使えるようになる必要があるなあ、と勉強になりました。

オープニングで謝辞スタートは平凡?
入学式や卒業式の式辞などは、ほとんどが来賓者等への謝辞からスタートすると思います。

ぼくはあの謝辞が聞いててすごく退屈なのですが、佐々木氏はこのことにもオープニングについて書かれた章で次のように触れていました。

スピーチの世界では時折、オープニングをお礼や感謝の言葉から始めるのは、平凡で退屈だという意見が出てきます。しかし、型通りの挨拶ではなく、ワンチュク国王のように偽りのない率直な気持ちや、具体的なエピソードを用いながら、心からの感謝の気持ちを伝えることができれば、聴衆の関心をストレートにつかむことができるのです。(p.136)

はっとさせられました。

必ず入れなければならないものかはわかりませんが、入れるなら、それが効果的になるような工夫をすべきなんですよね。反省。

自分だったらどうするか、常に考えながら今後は謝辞も聞いていきたいところです。

ちなみに、オープニングの良い例として挙げられているのが、

J・K・ローリングのハーバードでのスピーチ


ブータン王国ワンチュク国王のスピーチ


でした。これらも本当に素晴らしいスピーチです。

とにかくまずはインプット!
スピーチの原稿を作るために、どうすればよいのか、という具体的な手順と考え方を教えてくれる本書ですが、実は第1章のはじめの方には、こんなふうに書かれています。

スピーチの腕を磨くには、優れた話し手の話を聞くことが大切です。(p.39)

せっかくYouTubeなどでたくさんのスピーチが無料で見られるのですから、これを使わない手はありません。


結局は〈書くこと〉
この本を読んで、「やっぱ基盤は書く能力だなあ」と再認識しました。

スピーチといえば、指導事項的には〈話す・聞く能力〉に該当するし、話し言葉と書き言葉はちがう、ということもそのとおりだと思いつつ、その基盤にはやっぱり〈書く能力〉というのが厳然としてあるよなあ、と。

書く、という学習活動を基盤として、読むや話す・聞くを位置づけたい、という目論見が、ぼくのなかではずっとあるのだけど、その方向性を進めていくための勇気をもらいました。

まとめ
というわけで、『スピーチの教科書』は、ほんとうに参考になるいい本ですよ!

話し方の本を読むと、マインドセットとかに偏って説明されることが多くて、「考え方はわかったから具体的にどうすればいいか教えてくれよ」と思うことが多かったのですが、この本はすごく具体的で、すぐに取り組めると思います。

また、授業に落とし込んでいくことも、難しくはないと思います。

ぜひ、読んでみてください!