島添龍馬(文学作品のすすめ)

ミステリーを主にさまざま文学作品をご紹介していきます

ナンシー・アトウェル

ナンシー・アトウェルってどんな人?

ナンシー・アトウェルはアメリカを代表するライティング/リーディング・ワークショップの実践者の一人です。もともとは公立中学校の先生で、In the Middleの初版の売り上げをもとにしてメイン州に自分の学校「教師と生徒のための学習センター」(Center for Teaching and Learning)を設立して、理想の教育を追究しました。

ライティング/リーディング・ワークショップという、「自立した書き手/読み手を育てる」ことを軸にしたワークショップ型のカリキュラムを開発・実践するとともに、アメリカではたくさんの著作、DVD、そして学校でのインターン受け入れなどを通じて、多くの教師に影響を与えてきました。そうした功績が評価され、2015年には「教育のノーベル賞」として設立されたグローバル・ティーチャー賞の初代受賞者に輝いています。

[ITM]ナンシー・アトウェル、Global Teacher Prizeを受賞!

2015.03.16

In the Middleってどんな本?

In the Middleは、生涯で3回にわたって書かれた彼女の主著になります。まず1987年に初版が出版され、1998年に70パーセント以上が書き換えられて第二版が、2014年にはさらに80パーセント以上が書き換えられて第三版が出ました。アトウェル自身が学び続け、変化し続けた人なのです。

そして、今回刊行された『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』(三省堂)は、In the Middle第三版の抄訳です。

エッセンスが詰まった抄訳

原著が英語で650ページ以上もある大部の本のため、日本語で一冊の本として翻訳するには、前半部分を中心にして、さらに日本語と関わりの薄い英語特有の話題などを省いた抄訳にせざるを得ませんでした。それでも、彼女の教師としての歩みや、ライティング/リーディング・ワークショップの実際、評価の方法などについては、十分に伝わると思います。まさに「圧巻」。大村はまの実践と同じで、すぐに真似ができるようなものではないけれど、深く胸を打たれます。僕も、今回の翻訳を通じて、改めて多くのことを学びました。

訳者は吉田新一郎さん、小坂敦子さん、あすこまの3名

訳者は3名。まずはこの10年間、日本にライティング/リーディング・ワークショップ関連の文献を翻訳して紹介し続けてきたものの、「イン・ザ・ミドルは厚すぎて引き受けてくれる出版社がいないと思っていた」と語る吉田新一郎さん。次に、吉田さんとともに『ライティング・ワークショップ』『リーディング・ワークショップ』(ともに新評論)を翻訳し、アトウェルを深く敬愛している小坂敦子さん。そしてやはりアトウェルの影響を受けて彼女の学校にも行ったあすこまの3名です。ナンシー・アトウェルの仕事を日本に紹介するにあたって、これ以上ない2人と一緒に仕事ができました。

原著にはない情報もたくさんあります!

この日本語訳には、原著にはない特徴もあります。訳者である僕たち3人の経験や知識を、色々な形で書き加えました。例えば、僕がアトウェルの学校に行ったときに撮った教室の各コーナーの写真、その週の授業時間割を掲載しています。また、それらの写真だけでは教室の全体像がわかりにくいので、司馬舞さんに教室全体のイラストも描いてもらっています。

僕たちは、イン・ザ・ミドルの旧版やアトウェルの他の著作も読んでいるので、それをもとにした解説的なコラムも書きました。同様の訳注もたくさん。さらに、巻末には、日本でライティング/リーディング・ワークショップをする人におすすめの文献情報もあります。これらの情報が、アトウェルの本に接するのは初めてという日本の読者の理解を助けてくれるものと思います。

そして、日本円で7000円程度の原著に対し、いくら半分程度の抄訳とはいえ、2400円+税でこれだけの付加情報があるのは、とてもお買い得のはず!

僕にとっても大切な一冊です

このブログを継続的に読んでくださっている方はご存知かと思いますが、アトウェルは僕にとって大切な「先生」です。そのことは『イン・ザ・ミドル』の「少し長めの訳者前書き」に書きましたので、よかったらお読みください。

この本を読み始めてからちょうど10年たってこの翻訳を出せることを、心から嬉しく思っています。僕の個人史にとっても、この10年の勉強の決算となる一冊。僕を導いてくれた『イン・ザ・ミドル』が、他の誰かにとっても羅針盤となることを祈っています。ぜひ、お読みください。

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